TRICKY『BACK TO MINE』国内盤CDの、E-JIMAによるライナーノーツです。ブリストルが最も面白かった時代を反映したMIX CDとしては、DADDY Gのものよりも上を行く気がします。未発表曲も多く収録、店内演奏をしていると、かなりの確率で問い合わせを頂く1枚です。
世界のDJ文化の発展に大きく貢献している
DMCが“a personal collection for after hours grooving”というテーマの下で展開するシリーズ『Back To Mine』。これまでにニック・ウォーレン、グルーヴ・アルマダ、モーチーバ、タルヴィン・シン、エヴリシング・バット・ザ・ガール、オービタル、ニュー・オーダー、オーブ、アンダーワールド……など、書いているだけでも興味が沸き起こる人選による“自己探究”的MIXを13枚リリースしている。そして、あなたが現在聴いているこの作品が、通算14枚目。セレクタ−は、“汚れた顔の天使”トリッキーだ。
1964年生まれ、英国南西部の港街ブリストル出身。ブリストルでも治安の悪いことで有名なノウル地区で幼少時代を過ごす。80年代にはワイルド・バンチ、
マーク・スチュワート、
フレッシュ・4らと交流、その詩のセンスとパフォーマンスに注目が集まる。90年代初頭にマッシヴ・アタックの作品に参加した後、93年にはブリストルの自主レーベルNYEEVEからシングル「アフターマス」を限定リリース。95年にアルバム『マクシンクェーイ』でメジャー・デビューを果たす。3rdアルバム『ANGELS WITH DIRTY FACES』をリリース後、NYへ移住。その後も精力的な活動を続け、今年、通算7作目となるアルバム『ヴァルネラブル』をリリースしたばかりだ。
爬虫類的な粘着質のビートとボーカル、パンク〜ニューウェイヴを感じさせるアレンジ、哲学的ですらあるリリック、変人という噂??聖と邪が同居する(まさに“汚れた顔の天使”!)トリッキーの音楽世界のルーツが、このMIX CDに収められている。キュアーから始まり、THE BEAT、DR.ジョン、グレゴリー・アイザックス、チェット・ベイカー名前が一枚のCDに並ぶなんて本来「???」でしかないのだけれど、聴けば納得、これがトリッキーの世界そのものなのだ。そして彼のレーベルBROWN PUNKの作品として4曲が収録されている。これがまた、文句なしに素晴らしい!
以下、各収録曲をトリッキー自身のコメント(文中カギ括弧内)とともに追ってみよう。
1.
CURE「Lullaby」
トリッキーはことある毎にキュアーをフェイヴァリットに挙げている。「ロバート・スミスは世界一番のラヴ・ソング作家だ」。1989年のアルバム『Disintegration』に収録。ちなみに蜘蛛男に襲われる悪夢の歌。
2.
RADANNA「How We Ride」
トリッキーが新たに興したレーベル、BROWN PUNKから。ラッパーRADANNAとトリッキーによる曲。「いつもの俺よりマッチョでストリート」。
3.
ERIC B & RAKIM「MY Mlody」
「マッシヴ・アタックのおかげで、俺がヒップホップを沢山聴いていると思っている奴は多いだろうど、そうじゃない。ラキムはラッパ−じゃなくて、詩人だ」。2曲目のトラックを残し、ラキムのラップをブレンドしていく展開にシビレる。
4.
THE BEAT「Mirror In The Bathroom」
スペシャルズと並ぶ2トーンの代表的バンドの名曲。昨年リリースされた
ルーツ・マヌーヴァのMIX CDにも収録され、再評価も高まっている。「いつも聴きたい曲だ。リリースされていないが、カヴァーもした」。
5.
DR.JOHN「Loop Garoo」
ニューオリンズの巨匠が残した1970年のアルバム『Remedies』収録。「これは音楽じゃない、魔法だ。彼はボブ・マーリーと同類。暗いがポジティヴ」。
6.
RADAGAN & TRICKA「Receive Us」
TRICKAとはもちろんトリッキー(ジャマイカではこう呼ばれるらしい)。新作にも参加しているジャマイカンRADAGANとの共演。淡々とした彼流のダンスホール・ビートが印象的。「もし俺がマッシヴ・アタックにいなかったら作っていただろう」というアルバムも完成済みで、彼のBROWN PUNKからリリースされる予定。
7.
MORPHINE「Potion」
ヴォーカル&2弦スライド・ベース、バリトン・サックス、ドラムという個性的な編成のバンドの97年のアルバム『Like Swimming』収録。「この曲の歌詞が好きだ」。
8.
THE BUZZCOCKS「You Tear Me Up」
「ブラーやホワイト・ストライプス、THE VINESはバズコックスなしでは登場しなかったろう」。
9.
LE TIGRE「Much Finer」
RIOT GIRRRL MOVEMENTの中心的バンドBIKINI KILLのメンバーを擁する女性3人組。昨今の80'sリヴァイバルでも脚光を浴びている。「ビースティ・ボーイズがやりたかったのは、こんな感じじゃない?」。
10.
GREGORY ISAACS「NIGHT NURSE」
9曲目から自然にブレンドされるレゲエ名曲。「ブリストルの家で、ジャマイカとスパニッシュのハーフの娘と初めてセックスをしたときの曲のひとつ」。
11.
KAT CROSS「Symphony for Irony」
詳細不明。「3〜4年前に俺のヨーロッパのギグに来て、このCDをくれたんだ。英語は完璧じゃないけど、効果を与えていた。彼女の歌詞が素晴らしい。何かやろうと言ってから4年が経ってしまったけど、機会が来た」。
12.
KATE BUSH「Eat The Music」
「俺はいつも聴いたことがない音楽に入れ込むんだけど、ケイト・ブッシュはその典型」。93年のアルバム『The Red Shoes』収録。
13.
Costanza「Desire」
BROWN PUNKから、新作にも全面的に参加しているイタリア人女性ヴォーカリスト。ちょっとロリータな(
STINA NORDENSTAM似?)声が、ブリストル流儀のビートにフィット。「彼女は俺の女性ヴァージョンだ。俺のコンサートで彼女がCDをくれたときに知り合った。この曲は彼女がベッドルームで作った」。
14.
Chet Baker「My Funny Valentine」
古典。「トランぺッターであり信じられない声の持ち主」。色気と霊気がただよう名演。
15.
Liz Densmore「Just A Little Bit」
まだ14歳という白人女性シンガー。「彼女はブラック・ミュージックの顔を変えるだろう。俺は1曲聴いただけで彼女とサインした」。
13〜14〜15の展開はまさに鳥肌もの。これぞブリストル!
16.
LICKLE KINGS feat. SHOLA「Days Like This」
トリッキーが「彼らは2003年のスライ&ロビーだ。レゲエ、そしてアーバン・ミュージックの未来」と絶賛するプロデューサーPerry Melius (drums)と Wayne Nunes (bass)によるトラックに、女性ヴォーカリストSholaの歌声が乗る「ブラック・ミュージックの未来」。「泣きたい気分にさせる。マーヴィン・ゲイとモータウン以来、こんなに寂しいソウルを聴いたことがない」。
約60分のサウンド・スケープ??スピードや色を多彩に変えながら僕らの前に顕われるのは、まぎれもないトリッキーの世界。「これは、俺が育った、そして俺がいま聴いている音楽のミクスチャーだ。君らが旅をしながら聴くのにいいCDだと思う。昔はコンピレーション・テープを沢山作ったけど、ここんところ時間がなかったから、この作業は本当に楽しかった」と彼も語る通り、本当に純粋なセレクション/流れに仕上がっている。ジャンルや時代を飛び越えた内容は、トリッキーのファンにはもちろん、そうでない方にも興味深い一枚に違いない。
■E-JIMA(www.discshopzero.com)
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TRICKY『BACK TO MINE』
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